登録

考察:音楽・教育 - 2022年4月8日

ピアノが続くかわからない人へ

今まで多くの「ピアノを弾きたい」「ピアノを始めました」という方を見てきました。そして、多くの方がピアノをやめていくのを見てきました。まったく個人的な肌感覚ですが、ピアノ調律師・講師の視点からピアノを始める8~9割の方はやめていっていると感じています(もしかしたらどこかで再開してくれていたらすみません)。

そんな私から見た「ピアノが続く、弾けるようになるためのポイント」をお話しさせていただきたいと思います。

練習したくなる原動力

明確な目標(ピアノ曲)

ピアノを始めたいと体験レッスンに来る方で「私にできるおすすめは何ですか?」と尋ねる方は多いです。ピアノという楽器と演奏を知らなければ当然といえる質問ですが、実はここで既につまづいています。自分にできるものを探すより、本当に心の底から自分が弾いてみたい曲を探すことが大切なのです。

つまり「あの曲をピアノで弾きたい」という願望こそが明確な目標であり、その原動力は「感動」です。

感動がすべて

ピアノの練習をしようと思う動機に欠かせないのが「ピアノ曲に感動している」かどうかです。震えるほど、涙が出るほど感動するようなピアノ曲に出会っていますか?

さらにポイントは「ピアノ」です。音楽であれば何でもいいのですが、ピアノ曲の方がピアノという楽器への憧れが高まります。楽器にはそれぞれの個性があって、その楽器で弾きやすいメロディがあります。例えばバイオリンではきらきら星は初歩のメロディなのに対して、ピアノでは最初に演奏する曲ではありません。クラシックでもジャズでも映画音楽でも何でもいいのですが、「あのメロディーといえばピアノ」というピアノに適した曲の方がピアノへの憧れの度合いが高まります。

感動から生まれる行動力

ピアノを弾きたい願望がふくらむと行動が生まれます。もっと言ってしまうと、ある曲に感動して弾きたい衝動が抑えられなくなったら、ピアノ教室なんかに通う必要はありません。現代はインターネットのおかげで「ピアノの弾き方」を指南してくれる動画やサイトはいくらでもあります。もっといえば、日本は小中学校で楽譜の読み方を教えてくれるし鍵盤の操作も鍵盤ハーモニカで指導してくれています。

ピアノをならっている小学生のお宅に私がピアノ調律師としてお邪魔したときの話ですが、中学生で野球部のお兄さんがある日突然「エリーゼのために」を弾き始めて家族でびっくりしたそうです。聞いてみると、そのお兄さんはネット上の動画を見て練習したということでした。やってみたい思いがあれば、実現するためのガイドラインはインターネット上にあふれているのでチャレンジする機会はごろごろ転がっているのです、しかも無料で!!

頭がいいとか才能があるとかは関係ありません。「やらずにはいられない」エネルギーが突き動かし、愚直に行動し続けることで記憶力が伸びたり理解力が高まるという副産物的な結果が生まれるのではないかと思います。本当に壁にぶつかるまで、できるところは自分で進めてみましょう!

Knowing the problem is 90% solving it.

これはジャズピアニストのビル・エヴァンスがラジオの対談で言った言葉で「問題を知ることで9割は解決する」という訳になります。できない、わからない、というのは「何をすればよいのかわからない」という意味であり、何をすればいいのかわかればあとは突き進むだけです。「何をすればいいのか」は今の自分に何ができるのかよりも、感動から生まれる「できるようになりたい願望」です。それが先の「明確な目標」であり、感動と願望でわき目も降らず進み続け、壁にぶつかったらまた何をすればよいのか解決策を探して前進していくのです。基礎からとか、ハノンとエチュードというようなものは、自分がやりたいものを進めていく中で気づいたときにやればいいことで、それが大切という指導者の主観よりも自分がやりたい主観の方を優先するべきです。

逆に、先生の言うとおり課題をこなしていって「習い事」としてコンクールで賞を取ったり、はたまた一流音大を主席で卒業したのにピアノをやめる人もいます。やらされてきた学業ピアノだと卒業した途端に目的がなくなってしまうのです。

願望があれば困難を打ち負かす

以前ブログで「小学生、ショパンの雨だれを弾く」という記事を紹介しました。楽譜を読む、88ある鍵盤を一つ一つの指で正確にとらえて操作していく。このような作業は日常的ではないし、脳に負荷がかかるため習慣化するまではストレスになります。しかし感動と願望があればそんなものは全く問題ではないし、わずかでも、たとえ出だしの一音でも名曲に一歩踏み入れたと実感できればそれが実績となりさらなる感動となって先へ進める原動力となります。雨だれを弾いた少年はそこに感動してひたすら弾き続けたのです(今はリストの「愛の夢」を練習しています)。

上達しようとは思わない

ピアノを弾くことを目指すとしたら、幼稚園の先生がやっているような伴奏ていどなら誰でもできるようになると思います。問題は目の前に現れる楽譜と無数の鍵盤という困難をどうクリアしていくかです。しかし冷静に考えれば、ピアノは「ド」を押せば確実に「ド」がなるシンプルな構造で出来ています。バイオリンやトランペットは実用的な「ド」を鳴らすまで非常に長い年月がかかります。ピアノが難解なのは、一つなら簡単な音が無数に絡み合って複雑化していることです。楽譜に大量のオタマジャクシが散らばっていても一つ一つを丁寧に紐解いていけば時間はかかるものの確実にできるようになります。もう一つの困難は、その一つ一つが途方もない道のりとして立ちはだかり、前進しているかもわからず力尽きてしまうことです。なので、ピアノを始める方には「上手になろうとは思わす、『今日ピアノに触れた』ことを喜んでください。触れない日があったときに残念に思えたら、それは習慣づいた証拠です」とお話ししています。

終わりに

楽器を演奏することは楽器に触れることを習慣化することで、大袈裟かもしれませんがライフスタイルを変えることです。1日のわずか数分でも楽器に触れることが習慣化すれば確実に上達します。しかしそれを「やらなきゃ」というような責任を課すとストレスになり、続かない一つの原因となります。やりたい願望を育てて行動に変えていくことできっとピアノは弾けるようになります。過去に「ダイエットに成功したピアノ講師が初心者の方に勧めたいマインドセット」でダイエットは自分を洗脳することであると紹介しました。我慢して痩せてもリバウンドしますが、自分に「食べる必要がない」と納得させられれば食生活が変わります。ピアノも同じだと思っています。ピアノが弾けたら得られるメリットは必ずあります。ぜひピアノを生活の一部に取り入れられるよう工夫してみてください。

アーカイブ