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感想文 - 2023年12月20日

ベートーベンのマンガ

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関 勝史

@pianostudio

白髪が増え出した頃からベートーベンみたいだとよくいわれてきたので、この度コラージュ画像を作ってみました。

ベートーベンの作品は好きなものは多いですが、演奏してみたいのはむしろバッハの曲が多くベートーベンにはあまりゆかりはないのですが、「これは話題に取り上げておきたい」ものがあります。それはベートーベンの人生をテーマにしたマンガです。

鉄腕アトムの作者としてお馴染みの、手塚治虫さんが人生の最後に送り出そうとしていた「ルードウィヒ・B」という作品です。

手塚治虫と音楽

手塚治虫さんは、戦後間も無く漫画家として活動を始めて1989年に他界するまで、多大な作品を世に送り出し、またウォルト・ディズニーに憧れて日本でもアニメを制作したいと奔走した「マンガの神様」と呼ばれる人物です。手塚さんの漫画家としての活動については、世に出回っているたくさんの資料をご覧いただくとして、ここでは手塚治虫さんと音楽とベートーベンについて考察します。

手塚さんは宝塚で育ち、幼い頃からピアノを習い、さまざまな場面でそのピアノの腕前を披露していたエピソードが残されています。妹さんはピアノで音大へ進学したそうです。そんな音楽好きな手塚さんの作品には、音楽を取り上げた作品やシーンが数えきれないほど登場します。以下はその一部です。

  • 虹のプレリュード ショパンが登場する
  • 野ばらよいつ歌う クララ・シューマンが登場する
  • ブラック・ジャック 楽器や音楽をテーマにしたエピソード多数
  • その他 音楽を取り上げた短編作品が多数

そして、今回紹介したいベートーベンが主人公として登場する「ルードウィヒ・B」です。

歴史を作品に取り込む

手塚さんの作品は子供向けのものから大人が唸るような深いテーマなど多岐に渡りますが、特筆するべきは史実とフィクションを絶妙に絡み合わせてストーリーを展開していくところです。

例えば「火の鳥」は邪馬台国の時代から始まり、その直後が人類の終わりを描くものの、少しずつ現代へ近づきながら日本史のさまざまなエピソードを取り入れていて、歴史の教科書に登場する人物が多数描かれています。仏教の初めを描いた「ブッダ」や、戦時中が舞台となる「アドルフに告ぐ」なども、実在した人物が登場し、そこにオリジナルキャラクターを絡ませて手塚治虫さんならではのストーリーを展開していくところが作品の魅力です。

「ルードウィヒ・B」ではベートーベンをはじめ、家族や彼を取り巻く実在した貴族たち、同じ時代に活躍した作曲家たちが登場する中、オリジナルキャラクターのフランツ・クロイツシュタインという人物がベートーベンの人生にどう関わっていくのかを描いた作品でした。残念ながら、1989年に手塚さんが他界したことにより作品は未完で終わってしまいますが、そこまでの物語にもたくさんの人に知っていただきたい素晴らしい場面がたくさんあります。

ルードウィヒ・Bが描くベートーベンという人物

手塚さんが「ルードウィヒ・B」でどこまで史実に基づいて描きたかったのかは不明ですが、想像するにベートーベンとは本当にそういう人物だったのでは、と思わされる描写があります。父親に反発する部分もありながら、芯となる生き方はしっかりと受け継ぎ、情熱的でときに無邪気で、とにかく音楽に夢中な人物として描かれています。

そして特にこの作品で目を見張るのは、どのような圧力がかかろうと自分は自分であり決してその意志は曲げないという姿勢です。特にベートーベンが生きた時代は身分というどうすることもできない体制に苦しめられた人が多くいた時代で、そんな現実に思いっきり音楽で主張しようとしたベートーベンの生き様がこのマンガに込められた一番のメッセージなのだと思います。

自由で平等な現代を生きる私たちですが、社会的地位だとか「空気読め」のような目に見えない圧力に心が折れそうな場面はいくらでもあるでしょう。そんな日々の生活に疲れている方がいたら、ぜひこの作品を見て元気の源にしてもらえたらと思います。

おまけ

手塚治虫さんを後押ししたお母様のことを解説している動画がありました。よろしければご覧ください。